至高の台無しメディア

ウメ子の外側(前編)

今日はウメ子の少し昔のお話。

ウメ子のサイドストーリー前編。

 

ママー!いっぱい猫じゃらし刈ってきたー!
ほらほら見てー

チッ

見てよ、いっぱいだよ

あぁ、もう、うっとうしい!!
あっち行ってて!

・・・ママ

なに、なんか他に用でもあるの

猫じゃらし・・・

そんな邪魔なもの捨ててきなさい!
ゴミばっかり増えてあとで処分するの大変なんだから!

(´・ω・`)

それより学校のテストはどうだったの
平均点下がってたらもう遊びに行かせないからね

・・・

わかったの?分かったら、はい、でしょ!

はい・・・

じゃあママ仕事に行ってくるから、ちゃんと勉強するのよ

バタンッ(ドアを閉める音)

 

ウメ子は物心がついた頃からずっと母親と二人で暮らしてきた。

父親とはウメ子が幼い頃に別れたらしく、それ以上のことは何も知らない。

母親は大手商社に勤めるキャリアウーマンで、それなりの地位についていた。

いつも夜遅くまで働いていたためウメ子との会話はあまりなく、週に2,3回ほど顔を合わせればいい方だった。

言葉が厳しいのは、娘が男社会でも生き抜いていけるよう、強い女に育てるためだった。

甘やかしてはいけない。

弱みを見せてはいけない。

私がしっかりしなきゃいけない。

すべては娘のためだった。

 

一か月前、部下の大きなミスで責任を負わされその後始末を任されることになった。

やってもやっても終わらない仕事。

いつもの厳しい口調がさらに厳しくなる。

仕事でもそうだったが、それは娘に対してもそうだった。

彼女も本当はあそこまでキツく言うつもりはなかった。

だがプライドが邪魔をして「ごめんね」の一言が言えない。

「本当はママ、すごく疲れて余裕がないの、ごめんね」。

それが言えればどれだけ楽だっただろう。

たったそれだけが言えないために二人の関係は歪んでいく。

 

・・・数日後・・・

 

ウメ子の母が珍しく酔いつぶれて帰ってきた。

どうしたのママ!

はぁ・・・はぁ・・・

ママ!

全部お前のせいだ・・・

え!?

こっちは寝る間も惜しんで働いてるっていうのに、いつも遊んでばっかり・・・お前が悪いんだよ!
・・・猫じゃらしなんてもらって喜ぶヤツなんていねーんだよ、バカ!

でも・・・博士やみんなは嬉しいって

はぁ?そんなのウソに決まってんだろが!

ウソじゃないもん!

ははっ、分かってないのはあんただけだよ!

なんで・・・なんでそんなこと言うの!なんでママはそんなに意地悪なの!!

泣きたいのはこっちだよ!
ママはね・・・ママの仕事は・・・明日からどうずればいいのよ!

お仕事・・・なくなっちゃったの?
そんなのまた見つければいいじゃん!ママならできるよ!

なにを分かったように・・・あんたに何がわかんのよ!

・・・

もういい、早く寝なさい

・・・

早く寝なさいって言ってるでしょ!

 

部下の後始末をする中、さらなるミスが発覚する。

それは会社の地盤を揺るがすほど重大なものだった。

動揺した経営幹部たちはなんとか隠蔽を図ろうとしたが、真面目な彼女はそれに真正面から反対する。

「このミスでどれだけの人が危険にさらされるか分かってるんですか!!」

しかし彼らは首を縦に振らない。

「君の方こそこれが世間に知れたらうちの会社がどうなるか分かってるのか」

「ここで働いてるのは君だけじゃないんだぞ」

「ほかの社員やその家族、下請けの企業やそこに勤める人たちはどうなると思ってるんだ!」

はぁ・・・彼女は深いため息をついた。

「それは都合のいい言い訳です!」

「仮にここでミスを隠蔽して会社が残ったとしても、そんな体質の会社はすぐに潰れます!いや、潰れるべきです!」

「私は平気でミスを隠蔽する会社でなんて働きたくない!ほかの社員も下請けの方々もみんなそう思ってるはずです!」

祈るように指を組み、顔を上げようとしない幹部たち。

しばらくの沈黙が続いたのち、彼らは彼女を部屋の外へ追い出した。

 

翌日、彼女のデスクは最初からそこに何もなかったかのように綺麗に撤去されていた。

挨拶をしても誰もこっちを見ない。

呼吸すら困難になるぐらいの気まずい空気の中、直属の上司である部長が目も合わさず無言で封筒を渡してきた。

ど田舎の支部への異動。

事実上の左遷だった。

彼女はすぐに会社を飛び出し、いつもは飲まない酒を狂ったように飲んで帰ってきたのだった。

 

ママのバカ・・・ママのバカ・・・ママのバカ・・・バカ・・・バカ・・・バカ・・・

 

・・・1年後・・・

 

ウメ子の母親はキャバクラで働くようになっていた。

見た目もよく、喋りも上手かったお陰で客からの人気は上々なようだった。

絶対に見返してやる・・・。

彼女の闘志は心の中で燃え続けていた。

しかしその闘志とは反比例するように、ウメ子との関係は冷めていった。

ふぅー、ただいま

チッ

母親が仕事から帰ってきたっていうのに、その態度はなんなのよ

・・・

なんとか言いなさいよ!

黙れババァ

母親に向かってなんてこと言うのよ!

お帰りー♪死ねばいいのにー♪
これで満足?

もういい、あっち行ってて!

はーい♪

・・・あんたなんか・・・産まなきゃよかった

・・・そう

 

こうしてウメ子は心を閉ざしていく。

誠実であるがゆえの挫折、一生懸命であるがゆえのすれ違い。

人生はときとして非情なまでに残酷である。

つづく(多分)

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