ある日、偉大な経済学者であるハイエクとケインズの2人が
桃鉄(桃太郎電鉄)で対決するという、なんとも奇妙な企画が
行われた。

これからお話するのは、その一部始終である。

※桃太郎電鉄:コナミの人気ゲームシリーズの1つ。
各々のプレイヤーがサイコロとカードを駆使して総資産を競う
ボードゲーム。

ハイエク(以下H)「なんで私がこんなことを・・・」

ケインズ(以下K)「早く名前決めろよ、始められないだろ」

H「お、お前もお前だ、なんでこんな企画に私を呼んだのだ」

K「だって面白そうじゃん、経済学者が2人で桃鉄するとか
超ウケるんだけど(笑)」

H「私はこんなことをしている暇など」

K「それはお互い様だろ?」

K「暇がないなら、さっさとやって、さっさと終わらせようぜ」

H「しかし私は」

K「はいはい、じゃあ始めますよー」

ケインズのペースに乗せられ、ハイエクも渋々ゲームを始める。

<最初の目的地は名古屋です!>(ゲームの表示)

K「お、名古屋だって、めちゃ近いじゃん」

H「・・・おい、ケインズ」

K「あん?」

H「その・・・ルールを・・・教えてくれ」

K「えぇ、ハイエクって桃鉄知らねーの?」

H「私はこんなものに構っている暇などなかったのだ」

K「じゃあ、とりあえずサイコロ振って」

H「こうか?」

6の目が出る。

K「それで6コマ好きな方向に進めるから、好きなところに
進んでちょうだい」

H「この赤青黄のマスはなんだ?」

K「進めばわかるさ」

ケインズはにやにやしている。

青のマスにとまるハイエク。

K「チッ」

H「おい、お金がもらえたぞ」

K「青はお金をもらえるマス、赤はお金をとられるマス、
黄はカードがもらえるマスなんだよ」

ケインズが正直に言う。

H「ケインズ、お前、私をハメるつもりだったな?」

疑わしい目でケインズを見る。

K「何事も未知の方がワクワクするでしょ?(笑)」

H「それはお前の経済学の理論とは反対ではないか」

K「え?」

H「お前はその未知を、つまり可能性を信じられなくて
政府の市場介入を推したのだろう」

K「いやいや、ゲームと実際の生活は別だって」

K「ゲームで何が起こるか分からないのは楽しいけど、
実生活で何が起こるか分からなかったら不安でしょ?」

K「だから何かあったときは政府が助けますよーって
言ってるんだよ、ゲームだったらリセットすりゃいいじゃん」

H「・・・」

 

なぜかハイエクは黙っていたが、そのことを不思議に
思いながらも、ケインズがサイコロを振る。

K「お、俺も6だ、じゃあ俺はカードをもらおうかな」

黄マスに止まる。

K「ラッキー!ぶっとびカード、げっとー!」

H「なんだ、その、ぶっとびカード、というのは」

K「名前の通り、これを使うと全国のどっかの駅にランダムで
ぶっ飛ぶんだよ」

H「ちょっと待て」

K「どうした?」

H「お前と私は平等ではない」

K「なんでだよ、どっちも最初は0円だし、同じ東京駅から
出発したし、同じサイコロ振ってんじゃん」

H「そうではない、私はルールのことを言っているのだ」

H「私よりもお前の方がルールに詳しいということは、
お前の方がそのルールを使ってゲームを有利に進められる
ということだろう」

K「それは仕方ないじゃん」

H「お前の理論では、この不平等は無視してもいいのか?」

K「だから、そこは俺がフォローしてるんだからいいじゃん」

H「ふっ」

ハイエクはなぜか笑っている。

K「なんだよ急に、気持ちわるっ!」

H「そのお前のフォローこそ、私の理論の正しさを
証明するものなのだよ」

K「はぁ?」

H「お前の理論では、私とお前の間に政府なるものを介入させ、
この不平等を埋めることを是としているが、そんなことを
わざわざしなくても、お前は私との不平等を埋めるために
お前の方からフォローしているではないか」

K「そりゃ、そうしないとゲームが面白くないから」

H「ふっ、墓穴を掘ったな、ケインズ」

H「私の理論が言っているのは、そういうことなのだよ」

H「格差のひらき過ぎた社会は面白くない、だから人は自然と
道徳的になるのだ」

K「じゃあ聞くけど、ハイエクは自分が金持ちだったら、
どこぞの見知らぬホームレス全員に金を配るのか?」

H「そ、それは・・・」

K「俺だったら間違いなくそんなことはしないね」

K「俺の場合はたまたまハイエクにルールを教えてるけど、
教えないヤツだって普通にいるだろ」

H「うっ」

K「ほーら、人間の道徳性なんてその程度の信頼度しか
ないんだよ」

K「そんなもんに頼ってたって格差はひらくばっかりだし、
世界恐慌だってどうにもなんないだろ」

K「理想論は頭の中だけにしとけって」

 

ゲームが中盤に差し掛かり、2人の総資産の差は顕著に
なり始めていた。

K「ひゃっほー、また臨時収入げっとー!」

H「また貧乏神に勝手に物件を売られた・・・」

H「おい、ケインズ」

K「なんだよ」

H「このゲームには累進課税や福祉政策はないのか」

K「はぁ?何言ってんの?(笑)」

H「このままではお前と私の差はひらく一方ではないか」

K「そういうゲームなんだから仕方ないじゃん」

K「これで分かっただろ、お前が言うみたいに政府が
介入しないままだと、こういうことになるんだよ」

H「それとこれとは」

K「同じだって」

K「それとも何か?途中で俺の気が変わって、お前にお金を
恵んだりすると思うか?勝負なのに?あり得ないだろ」

H「しかし」

K「お前が言ってたんだぞ、“市場においては意図せざる
帰結が最も重要なのである”って」

H「それは・・・」

K「もう認めたらどうだよ、お前の方が正しい、って」

 

終盤に差し掛かり、2人の差はもうどうしようもないほど
ひらいていた。

ケインズの資産256億円。

ハイエクの資産マイナス31億円。

これ以上ゲームを続ける意味はまったくなかった。

K「はぁーあ、もう俺が何もしなくても俺の勝ちだな」

ハイエクは黙っている。

K「なぁ、ハイエク」

H「なんだ」

K「このゲーム、楽しかったか?」

またしてもハイエクは黙っている。

K「これがお前の自由至上主義ってヤツだよ」

K「市場に成り行きを任せるとつまらない社会になる
いい例だと思うぞ」

K「なんとか言えよ」

ここでハイエクが口を開く。

H「仮に私の理論が間違いだったとしても、お前の理論にも
致命的な思い上がりがある」

K「まだそんなこと言うのかよ」

H「このゲームに累進課税や福祉制度があったとしたら、
お前のやる気はいずれ失せ、私の向上心や闘争心も
失われてしまうだろう」

H「さっき私は、累進課税や福祉制度はないのか、と言ったが、
それによって私が一時的に助けられたとしても、それが続けば
やがて政府に助けられるのが当たり前になり、私の頑張る意欲を
奪うことになる」

K「じゃあお前はお前みたいなヤツを見捨ててもいいって
言うのかよ」

H「そこは道徳心でだな」

K「それがあてにならないことはさっきも言ったよな」

H「お前の政策も長期的には詰んでいる」

しばしの沈黙。

K「・・・もうやめようぜ」

 

こうして2人の経済学者による桃鉄対決は終了した。

彼らの理論にはいずれも看過できない欠点がある。

ハイエクは近代の個人主義を見誤っていたし、
ケインズは近代科学の限界を見誤っていた。

2人とも近代を土台にしている点で、同じ穴の狢だったのだ。

彼らが気付くべきだったのは、ケインズがハイエクに
(自分の優位性が下がるにもかかわらず)ルールを教えた
ということである。

ケインズは人の道徳性などあてにならないと言ったが、
それ以上深くは道徳性について考えなかった。

なぜ自分はハイエクにルールを教えたのか。

それを突き詰めれば結果は変わっていたかもしれない。

 

近代とは、ここで言うところの「桃鉄」です。

本来、われわれ人間はこの桃鉄の外側にいるはずなのに、
桃鉄の上で考えたり、動いたり、つまづいたりしています。

だから格差は広がるし、その広がる格差を意図的に
縮めなければならないと思ってしまうのです。

最初にわれわれがすべきことは、桃鉄をやめることです。

正確には、やめることができない前提で、それを踏まえて
乗り越えることです。

そうすれば、ケインズとハイエクを越える、関係の理論が
見えてきます。

その点でやはりベイトソンは偉大だなぁ、と思うワケですが、
小難しいことはともかく、人としていかにあるべきかを、
人と人との関係を大事にしましょう。

それこそが道徳性の根源であり、格差社会を救う救世主
なのです。

ありがとうございました。

 

※この記事はメルマガ『脱凡人のすすめ中級』からの転載です。

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